ドライアイの人は本当に睡眠が浅い?科学的根拠と改善法を徹底解説

眼のケア

現代社会において、ドライアイと睡眠障害は誰にでも起こりうる身近な健康問題です。最近の研究により、これら二つの問題が密接に関連していることが明らかになってきました。「ドライアイの人は睡眠も浅くなる」という疑問について、国内外の最新研究をもとに詳しく解説します。

ドライアイと睡眠の関係:科学的根拠

大規模研究が明かす関連性

2021年に発表されたオランダの大規模研究では、71,761人を対象とした調査により、ドライアイと睡眠の質の関係が明確に示されました[1]。この研究では、ドライアイ患者の36.4%が睡眠の質が悪いことが判明し、これは健康な人の24.8%と比較して有意に高い数値でした。

さらに注目すべきは、ドライアイの症状が「しばしば」または「常に」ある人の44.9%が睡眠の質が悪いという結果です[1]。この割合は、睡眠時無呼吸症候群や変形性関節症の患者と同程度であり、ドライアイが睡眠に与える影響の深刻さを物語っています。

日本人を対象とした研究結果

日本でも同様の研究が行われており、2021年に発表されたJPHC-NEXT研究では、106,282人の日本人を対象とした大規模調査が実施されました[2]。この研究では、睡眠の質とドライアイの関係について以下の興味深い結果が得られています:

  • 入眠困難や中途覚醒の頻度が高いほど、ドライアイの症状が強くなる
  • 疲労感を伴う起床が多いほど、ドライアイの症状が悪化する
  • 睡眠時間が8時間と比較して短い場合、男女ともにドライアイの有病率が増加する
  • 男性では10時間以上の長時間睡眠でもドライアイが増加する傾向がある

特に、入眠困難が最も多い群と最も少ない群を比較すると、男性で2.23倍、女性で1.91倍もドライアイのリスクが高くなることが示されました[2]。

睡眠の質とドライアイの詳細な関係

Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)による評価

複数の研究で使用されているPSQI(ピッツバーグ睡眠質問票)による評価では、ドライアイ患者は以下の睡眠項目で有意に悪い結果を示しています[3]:

  • 主観的睡眠の質:ドライアイ患者はより主観的な睡眠の質が悪い
  • 入眠潜時:眠りにつくまでの時間が長い
  • 睡眠の乱れ:夜間の覚醒や睡眠の中断が多い

2024年に発表されたメタ解析では、21の研究と419,218人の参加者を対象とした大規模な分析により、ドライアイ患者のPSQIスコアが健康な人と比較して有意に高い(睡眠の質が悪い)ことが確認されました[3]。

睡眠時間の異常とドライアイ

興味深いことに、ドライアイ患者は睡眠時間の異常(不足または過剰)を示すリスクが高いことが分かっています[3]:

  • 睡眠不足のリスク:健康な人と比較して3.76倍高い
  • 過度の眠気のリスク:健康な人と比較して5.53倍高い
  • 睡眠障害全般のリスク:健康な人と比較して2.20倍高い

生理学的メカニズム:なぜドライアイが睡眠に影響するのか

涙液分泌の概日リズム

最新の研究により、涙液の分泌には明確な概日リズムがあることが判明しています[4]。正常な状態では、涙の分泌量は夜間に増加し、目の表面を保護します。しかし、ドライアイ患者ではこの自然なリズムが乱れ、夜間でも十分な涙液が分泌されない可能性があります。

マウスを用いた実験では、概日リズムの乱れがドライアイの発症と進行を促進することが示されています[5]。概日リズムが乱れたマウスでは、角膜上皮の染色やアポトーシス(細胞死)、炎症性サイトカインの増加が観察されました。

メラトニンと涙液の関係

人間の涙にメラトニンが含まれていることが2016年の研究で初めて証明されました[6]。メラトニンの涙中濃度は明確な概日リズムを示し、夜間(24時)には朝(8時)の約2倍の濃度に達します。

メラトニン類似物質を用いた動物実験では、これらの物質が涙液分泌を促進することが示されており[7]、メラトニンがドライアイ治療の新たな選択肢となる可能性が示唆されています。

夜間の不完全な瞼閉鎖(夜間兎眼)

夜間兎眼(Nocturnal Lagophthalmos)と呼ばれる、睡眠中に瞼が完全に閉じない状態は、ドライアイと睡眠の質の両方に影響を与えます[8]。2020年の日本人2,000人を対象とした調査では、以下の結果が得られました:

  • ドライアイ群では夜間兎眼の有病率が有意に高い
  • 夜間兎眼がある人は、若年者、症候性ドライアイ、起床時の眼症状との関連が強い
  • ドライアイ群では睡眠時間が短く、入眠潜時が長く、睡眠効率が悪い

睡眠時無呼吸症候群との関連

睡眠時無呼吸症候群(OSA)とドライアイの関連も注目されています[9][10]。2022年の研究では、OSA患者125人と対照群125人を比較した結果:

  • OSA群でドライアイのリスクが有意に増加(p=0.016)
  • 重症OSA患者でドライアイ関連パラメータがより悪化
  • 睡眠の質が悪いOSA患者でドライアイ症状がより重篤

双方向の関係:悪循環のメカニズム

ドライアイが睡眠に与える影響

ドライアイによる眼の不快感や痛みは、直接的に睡眠の質を低下させます[11]。多くの患者が以下のような体験をしています:

  • 眼の刺激や痛みによる入眠困難
  • 夜間の眼の不快感による中途覚醒
  • 朝の眼症状による起床時の疲労感

睡眠不足がドライアイを悪化させるメカニズム

睡眠不足は複数の経路でドライアイを悪化させます[12]:

  1. 涙液分泌の減少:睡眠不足により涙液分泌量が有意に減少
  2. 涙液の安定性低下:涙液破綻時間(TBUT)の短縮
  3. 涙液浸透圧の上昇:涙液の質的な変化
  4. 角膜上皮細胞の構造異常:マイクロビライの構造変化

実際に、健康な男性20人を対象とした実験では、睡眠不足により涙液浸透圧が上昇し、涙液破綻時間が短縮し、涙液分泌量が減少することが確認されています[12]。

神経科学的メカニズム

アデノシンと睡眠調節

睡眠調節に重要な役割を果たすアデノシンは、ドライアイと睡眠の関係を理解する上で重要な物質です[13][14]。アデノシンは覚醒中に蓄積し、睡眠圧を高めるとともに、涙液分泌の制御にも関与している可能性があります。

セロトニンと概日リズム

セロトニン(5-HT)は概日リズムの調節に深く関与しており、ドライアイ患者の涙液中でも検出されています[15]。特に、症候性の水分欠乏性ドライアイ患者では、正常な涙液分泌を持つドライアイ患者と比較して、涙液中のセロトニン濃度が高いことが報告されています。

臨床的意義と治療への示唆

包括的アプローチの重要性

これらの研究結果は、ドライアイと睡眠障害の治療において包括的なアプローチが必要であることを示唆しています[16]。単独の症状に対する治療だけでなく、両方の問題を同時に考慮した治療戦略が効果的である可能性があります。

予防的介入の可能性

睡眠の質を改善することで、ドライアイの予防や改善が期待できます。具体的には:

  • 適切な睡眠時間の確保(7-8時間)
  • 規則正しい睡眠リズムの維持
  • 睡眠環境の改善(湿度管理、アイマスクの使用など)
  • 夜間の眼保護(潤滑剤の使用、眼軟膏の適用)

夜勤労働者への配慮

研究により、夜勤労働者はドライアイのリスクが高いことが示されています[8]。これは概日リズムの乱れが涙液分泌に影響を与えるためと考えられ、夜勤労働者に対する特別な眼科的ケアの必要性が示唆されています。

まとめ

最新の科学的研究により、「ドライアイの人は睡眠も浅くなる」という関係性は事実であることが明確に証明されています。この関係は一方向的ではなく、双方向の悪循環を形成していることが特徴的です。

ドライアイ患者は健康な人と比較して、睡眠の質が悪く、入眠困難、中途覚醒、起床時の疲労感などの問題を抱えやすいことが複数の大規模研究で示されています。同時に、睡眠不足や睡眠の質の低下は、涙液分泌の減少や涙液の質的変化を引き起こし、ドライアイを悪化させることも明らかになりました。

この関係性の背景には、概日リズムの乱れ、メラトニンやセロトニンなどの神経伝達物質の変化、夜間の不完全な瞼閉鎖、睡眠時無呼吸症候群などの複雑なメカニズムが関与しています。

今後は、ドライアイと睡眠障害を個別の問題として捉えるのではなく、相互に関連する複合的な健康問題として包括的に治療することが重要です。適切な睡眠習慣の維持、睡眠環境の改善、そして必要に応じた専門的な治療により、両方の症状の改善が期待できるでしょう。

参考文献

  1. The relationship between dry eye and sleep quality – PubMed
  2. Patients with dry eye suffer from worse sleep quality
  3. 睡眠とドライアイ | 医療法人 森下眼科
  4. Association between sleep quality and dry eye disease
  5. Dry Eye Patients Have Worse Sleep Quality – Review of Optometry
  6. 医学博士 眼科専門医の有田玲子先生が不健康な睡眠状態とドライアイの関係について解説
  7. A multi-institutional cohort study on risk of sleep disorders in dry eye disease
  8. Association between poor sleep quality and an increased risk of dry eye disease
  9. Impact of Obstructive Sleep Apnea and Continuous Positive Airway Pressure treatment on dry eye disease
  10. Evaluation of Ocular Surface Health in Patients with Obstructive Sleep Apnea Syndrome
  11. Presence of melatonin in human tears – PMC
  12. Professor Yuan Jin’s team reveals the pathogenic mechanism of circadian rhythm disruption in dry eye
  13. Association between poor sleep quality and an increased risk of dry eye disease
  14. Effect of Melatonin and Its Analogs on Tear Secretion – PubMed
  15. The Association Between Dry Eye and Sleep Disorders
  16. Relationship between unhealthy sleep status and dry eye symptoms in a Japanese population: The JPHC-NEXT study
  17. Relationship between unhealthy sleep status and dry eye symptoms in a Japanese population: The JPHC-NEXT study
  18. Relationship between unhealthy sleep status and dry eye symptoms in a Japanese population: The JPHC-NEXT study
  19. Relationship between unhealthy sleep status and dry eye symptoms in a Japanese population: The JPHC-NEXT study
  20. Analysis of Sleep Quality Evaluation Factors Affecting Dry Eye Syndrome
  21. Circadian clock regulates tear secretion in the lacrimal gland
  22. Awards – ドライアイ研究会
  23. The relationship between dry eye and sleep quality
  24. Nocturnal Lagophthalmos and Sleep Quality in Patients with Dry Eye Disease
  25. Nocturnal Lagophthalmos and Sleep Quality in Patients with Dry Eye Disease
  26. How to Prevent Dry Eye While Sleeping | Omaha, NE
  27. Sleeping with eyes open: Treatment, causes, and safety
  28. Floppy Eyelid Syndrome – Warwar Eye Group
  29. Sleeping with Eyes Open – American Academy of Ophthalmology
  30. Better manage nocturnal lagophthalmos for dry eye patients
  31. Loyola Study Finds Floppy Eyelids May Be Sign of Sleep Apnea
  32. Understanding REM Sleep How It Benefits Your Eye Health
  33. Sleep Quality and Dry Eye – EyeCare Consultants of NJ
  34. Adenosine in the tuberomammillary nucleus inhibits the histaminergic system via A1 receptors and promotes non-rapid eye movement sleep
  35. Sleep Deprivation Reduces Tear Secretion and Impairs the Tear Film
  36. Adenosine, caffeine, and sleep–wake regulation – PubMed Central

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