ブルーライトカット眼鏡は本当に睡眠に効く?医師が科学的に解説!

眼のケア

はじめに

現代人にとって「目」と「睡眠」の関係は重要な健康課題となっています。特に「ブルーライトカット眼鏡」の人気と睡眠への効果への関心が高まっていますが、その有効性については国際的な研究と日本の医学団体で見解が分かれています。本記事では、最新の科学的エビデンスと日本の公式ガイドラインをもとに、ブルーライトカット眼鏡が本当に睡眠改善に効果があるのかを解説します。

ブルーライトとは何か

ブルーライトは波長380~500nmの青色光で、可視光線の中で最も波長が短くエネルギーが強い光です。この光は角膜や水晶体で吸収されず、網膜まで到達します。

主な発生源は太陽光、パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイ、LED照明などですが、デジタル機器から発せられるブルーライトは太陽光の数百分の1程度とされています。

ブルーライトと睡眠の関係

体内時計とメラトニンへの影響

ブルーライトは体内時計に影響し、睡眠リズムを調整するメラトニンというホルモンの分泌を抑制します。夜間にブルーライトを浴びると、メラトニン分泌が抑えられ、眠りにくくなると考えられています。

ブルーライトカット眼鏡の睡眠への効果:国際的エビデンス

効果を支持する研究

  • 海外のランダム化比較試験では、ブルーライトカット眼鏡の就寝前着用が、睡眠・覚醒相後退障害(DSPD/DSPS)の患者で睡眠リズムや睡眠の質、起床困難の改善、総睡眠時間の延長に寄与したと報告されています。
  • 日本の研究でも、DSPD患者9名が2週間アンバーレンズを着用した結果、メラトニン分泌開始が78分早まり、睡眠開始も132分早くなったと示されています。
  • 妊婦を対象とした2022年の研究では、ブルーライトカット眼鏡着用群でメラトニン分泌開始が28分早まり、夜間のメラトニンレベルも高くなりました。

効果を否定する大規模研究

  • 2023年のコクラン・レビュー(17件のRCT、619名対象)では、ブルーライトカット眼鏡による眼精疲労や視神経炎の評価で有意差は認められませんでした。
  • 2021年の健康成人を対象としたRCTでも、主観的な睡眠開始や夜間覚醒は改善したものの、客観的な睡眠時間や質に有意な差は見られませんでした。

日本の医学団体による公式見解

日本眼科学会など6団体の声明

2021年、日本眼科学会など6団体は「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」を発表しました。主なポイントは以下の通りです。

  • デジタル端末からのブルーライトは自然光よりも少なく、網膜障害のリスクはない。
  • 太陽光は小児の発育に重要で、十分に浴びないと近視進行リスクが高まる。
  • RCTではブルーライトカット眼鏡の眼精疲労軽減効果は認められない。
  • 夕方以降の大量のブルーライト曝露は睡眠障害の可能性があり、夕方以降の眼鏡使用は無意味とは言えない。

アメリカ眼科学会(AAO)の見解

AAOも「ブルーライトが目に悪いという科学的根拠はない」とし、ブルーライトカット眼鏡を推奨していません。疲れ目対策としては「頻繁な休憩」が最良と述べています。

睡眠の質を上げるための科学的根拠に基づく対策

  • 寝る2~3時間前からデジタル端末の使用を控える。
  • どうしても使用する場合は、画面の輝度を下げたり、ナイトモードやダークモードを活用する。
  • CDCは夜勤者に朝の通勤時ダークサングラス着用を推奨していますが、運転時は避けるよう注意を促しています。
  • 20-20-20ルール(20分ごとに6m先を20秒見る)で目の疲労を軽減。

結論と実践的アドバイス

科学的コンセンサス

最新の国際研究と日本の医学団体の見解を総合すると、ブルーライトカット眼鏡の睡眠への効果は限定的です。2023年のコクラン・レビューでも眼精疲労や睡眠改善の明確な効果は確認されていません。

推奨事項

  • 夕方以降の限定的使用:夕方以降の使用は一定の効果が期待できます。
  • 特定の睡眠障害への効果:睡眠・覚醒相後退障害などの特定のケースでは効果が期待できます。
  • 総合的な睡眠衛生の実践:ブルーライトカット眼鏡だけに頼らず、デジタルデバイスの使用制限や適切な照明、規則正しい生活リズムなど、総合的な対策が重要です。

現在の科学的根拠に基づくと、ブルーライトカット眼鏡は睡眠改善の万能薬ではありませんが、適切に使えば睡眠の質向上に一定の効果が期待できるツールの一つです。最も大切なのは、信頼できる科学的根拠に基づいた総合的なアプローチで、健康的な睡眠習慣を築くことです。


参考文献

1. The inner clock—Blue light sets the human rhythm
2. Evening wear of blue-blocking glasses for sleep and mood disorders
3. Wearing blue light-blocking glasses in the evening advances sleep timing
4. A randomized controlled trial on the effect of blue-blocking glasses in pregnancy
5. How do Night Shift Glasses work? – SomniLight Light Therapy
6. Blue-light filtering spectacles probably make no difference to eye strain, eye health or sleep
7. Blue-light filtering spectacle lenses for visual performance, macular protection, and sleep
8. Improve Sleep by Avoiding Light – CDC

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